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2024年5月 6日 (月)

NHKマイルCの裁決についての見解

 ということで、ツイッターで予告したように(そう大したことを書くわけでもないのですが)、昨日のNHKマイルCの事象について私見を書きます。長くなることはご容赦ください。

 

なお、2006年(旧裁決制度時)、そして2013年(現行制度成立直後、例のアメリカJCCで物議を醸した事例の直後)に、裁決委員に2度単独取材して、詳細な説明を受けたことが基になっていることを前提としています。もちろん公式に今回の件について裁決がコメントを出しているわけではありません。

★まず、今回の件と直接関係はないですが、現行の降着制度は、馬券を買ったファンにも大きな被害が及ぶ降着という措置と、騎手への制裁を分けている、ということ。
事象が起きた地点以降の内容から、被害馬が明らかに加害馬に先着できたと判断した場合に、被害馬と加害馬の着順を入れ替えるというのが基本です。これは海外の多くのグループⅠ国が採用している制度です。

 

極端な話、被害馬が落馬した場合であっても、それがゴール近くでのものではない限り、着順の回復の判断が付かないので、「降着にならないケースもあり得る」というのが回答でした(例として旧制度時におきた京都大賞典でステイゴールドが失格となった件での説明もありました)。ただ、それが騎手の明らかに粗暴な騎乗、軽率な騎乗である場合は、降着ではなく過怠金や騎乗停止などの処分の方で対応するということです。

実質的に、降着については、1,2位入線とか、2,3位入線のように、連続した入線順位の間でしか現在は検討されないと考えていいとなります。つまり、メジロマックィーンの天皇賞秋のように、1位入線馬が10何着馬の後に降着というようなことは、可能性はゼロではないにしても、新制度ではほぼ無いとなります。

「今回の件が降着事案ではないか」という声もいくつか目にしたので、まずはここから説明しました。

 

★続いて、騎手への制裁の軽重を決める際の判断基準です。以下が全てではないですが、簡単に書くとこうなります。
まず、馬との間隔が小さいところで 正常ではない動きをすれば、基本的には戒告から始まり何らかの処分はあります。その上でどこまで重くしていくかということになります。処分があったから違反ではあるのですが、どの程度が妥当かということになります。
なお以下便宜上ナンバリングしましたが、これは今回私が付けたもので、処分の優先順位ではありません。

 

(1)粗暴な動機が明白か(昔、ある騎手が腹を立ててレース中に暴力行為に及んだり、意図的に横腹にぶつけたりしたことがありました。そういう行為を指します)。

(2)不可抗力による情状酌量ができるかどうか(馬の癖や、鳥の動き、光の反射などによる逃避、あるいは前の馬の故障による転倒を避けようとしての動作かなど)。この場合は処分無しも多いですが、ごく軽い処分が出ることはあります。

(3)どの加害馬が事象の起点となったか(複数の加害馬がいる場合、どちらが起点馬か。加害馬Bは、加害馬Aの動きにより波及して動いたものかどうか、など。)

(4)事象が起きた時に、加害馬の騎手が即座に回避行動をしているかどうか。(していればセーフというものではないですが、処分の程度が下がる可能性があります)

(5)事象のあとに継続的に危険を助長する行為をしていないか(たとえば、左回りだとしたら、馬が内へササって押圧、あるいは後続の進路をふさいでいる場合に、動作を止めずに右からステッキを打ち続けていないか、など。当然その場合は重くなります)

(6)予測できる危険を無視した騎乗ではないか(前にスペースがないのに無理やりこじ開けようとした、など)

(7)ごく小さな動きが連鎖して、結果的に大きくなったものであるかどうか(「複数の馬のわずかな動きにより・・・」のアナウンスのケース。被害馬はいるが加害馬が特定できない場合です)。

だいたいこれらの基準に照らし合わせて、複数の委員が協議し処分が決まります。これらの基準は、降着すべきかどうかの検討においても共通です。場合によっては、被害馬の騎手に事情を聴くこともあります。また、微妙なケースでは、被害馬に脚が残っているかどうかを検討することもあります。
もちろん騎手は、裁定後に不服申し立てをすることも可能です。

今回の場合は(3)から(6)までの視点が絡んでくると思われます。

●具体的に今回の事象を見ていきます。これは多くの識者が指摘しているとおりの流れだと私も思います。アスコリピチェーノが空いたスペースに入ろうとしてゴーサインを出したら、マスクオールウィンがササってきて行き場を失くしたことで複数の接触事例が起きた形です。

時系列でみると
川田騎手に外からブロックされたルメール騎手が、内への進路を探すも前が壁⇒ミルコの馬が下がり始め、岩田康騎手の内にスペースが出来る⇒そこにルメールが入ろうとする⇒前の岩田康騎手の馬が内へササる(岩田騎手はここでは右鞭を打っています)⇒ルメールは行き場を失くすが、ゴーを出した直後で勢いが止まらない。アスコリが躓く⇒ルメールは右手綱を引き上げて落馬を避けつつ、バランスを崩したことで完全な制御ができなくなった馬が、これ以上内へ行かないようにする⇒一方ボンドガールでラチ沿いにいた武豊騎手は、おそらく危険を察知したのでしょう、ラチにぶつけられるのを防ぐために内から押し返すも、外からの圧が止まらないので手綱を引いて下げる⇒マスクが失速し下がりアスコリの出すところが空き、ルメールが姿勢を戻して馬を追い出す・・・

だいたいこのような流れだと思います。以下各事象への筆者の見解です。

★川田騎手のブロックは騎手の技術であり、好き嫌いはあると思いますがこれはライバルを封じるための高等プレイです。

★ルメールが入ろうとしたスペースは、馬1頭分は空いていて(これは映像から明らか)、ここに入ろうとするのも当然の行為です。この程度のスペースを割るのは珍しいことではありません。これがダメなら、古い話ですみませんが、昭和52年皐月賞のハードバージ・福永騎手や、テイエムオペラオーの有馬記念の和田騎手も危険騎乗になってしまうし、近いところでは高松宮記念のナランフレグなどもダメになってしまいます。

なお斜めに走ること自体は競馬では禁止されていません。後ろとの間隔があることが条件となりますが。今回は動き出した箇所(スペースに入ろうとした時点)では危険はなかったと思います。斜めに走り出してから、狭くなったことで後ろではなく隣との危険水域に入ってきたのは確かですが。

★アスコリピチェーノ、ボンドガール、キャプテンシーにとって不運だったのは、マスクオールウィンが疲れたのか右鞭に反応したのか分かりませんが、内へササってきたこと。もちろん岩田康騎手は故意に締めたわけではありません。
ルメールはムチを使っておらず、また右手綱を外側へ引いており、危険回避行動をとっています。岩田康騎手も、異常に気付きムチをやめています。

(3)については、岩田康騎手の馬がA、ルメール騎手の馬はBとなるでしょう。
(4)については、両騎手とも問題ないと思います。
(5)についても、問題ないと思います。
(6)は、考慮されたと思います。両名共に瑕疵はあったでしょう。

岩田康騎手については単に起点となったために下った処分。ルメール騎手は、もしマスクの内斜行がなければスムーズに抜けていたが(ある意味ここでは被害馬といえないこともありませんが)、締まる可能性も想定しなければならなかったことと、直接他馬に接触しているので(ここは二次的要因とはいえ加害馬)、差し引きで岩田康騎手と同額の処分になったと思われます(完全に推測ですが)。
そもそも、金額が共に3万に留まっているあたりが、いろいろ考慮してやむを得ない側面もあると裁決に判断されたことを表しています。

 私は馬に乗れないので、これが競馬だ、とか、こうなるリスクも当然あるという物言いはしたくないです(以前ある騎手が「馬は人のように簡単にストップアンドゴーできないし、減速の命令も簡単に聞いてくれない」と言っていました)。
ただ1つ、騎乗云々以外に個人的にいいたいことがあって、(昨日の場合には該当しづらいので話は逸れますね)以前裁決を取材した当時にも拙著で書いたのですが、芝において馬が密集することを助長するような馬場づくり(内を通らないと勝負にならないような)には疑問を呈してきました。もちろん、芝が荒れ放題でいいとは思いませんが、馬場を均質に保つことに対し神経質になりすぎると、こういう事態が起きるリスクが上がります。
昔のように、使っていけば内が荒れて外へ持ち出す。しかし距離ロスとテンビンに掛けて、内が得と思えば空いたインコースへ敢えて入ってくる・・・といった、馬場を広く使った攻防の方がこの手の事故の危険度は下がるはずです。(じゃあダートは?という問題はありますが、少なくとも芝では、ということ)

 今回はGⅠレースで、しかも人気馬が被害を受けたので、一般ファンが熱くなるのも分かるし、いろいろな意見が出るのは当然ですが、一応競馬マスコミの端くれとして今回の事象を説明してみました。困るのは「自分がアスコリピチェーノ本命だったからだろ」と言われることですが(笑)、そこは次元が違う話なので一緒にしないでもらえると幸いです。

 

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